相続を考える前に、自分のためのお金を考える

「子どもに少しでも残したい」。年齢を重ねると、そんな気持ちが強くなることがあります。一方で、旅行に行きたい、趣味を続けたいと思っても、「このお金は使っていいのだろうか」とためらってしまう。貯蓄があっても、使うことには別の難しさがあるようです。

金融老年学は、年齢とともに変わるお金の判断や、暮らしとの関係を考える分野です。ここで大切なのは、資産をいくら残すかだけではなく、本人がその資産をどう生かして暮らすかという視点です。

行動経済学には「心の会計」という考え方があります。人は同じ一万円でも、「生活費」「将来の備え」「家族に残すお金」と、頭の中で別々の財布に分けて考えがちです。家族のためと決めたお金には、手をつけにくくなることもあります。

もちろん、相続に備えるのは大切なことです。ただ、何をどのくらい残すかは、誰にとっても同じ答えではありません。まず毎月の生活費、医療・介護費などの備え、住まいの修繕費を見積もる。そのうえで、無理なく使えるお金を「自分の楽しみのため」として分けておく方法もあります。

温泉旅行に出かける、好きな音楽を聴きに行く、昔から続けてきた趣味にお金を使う。そうした経験は、後からまとめて買えるとは限りません。体力や気力がある今だからこそ味わえる喜びもあります。

家族との話し合いも、財産の額を伝えることだけが目的ではありません。「どんな暮らしを続けたいか」「何を大切にしてお金を使いたいか」を共有することから始めてもよいでしょう。

残すことと、使うことは対立するものではありません。

大切なのは、どちらも自分の意思で選べること。将来への安心を守りながら、今の暮らしにも目を向ける。そんなお金の使い方を考えてみませんか。

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