「老後のために、お金はなるべく残しておきたい」
そう考えるのは、とても自然なことです。長く生きるほど、この先いくら必要になるかわからない。だから、使わずに持っていることが安心につながります。
けれど、金融老年学では、お金だけでなく「時間」も一緒に考えます。
たとえば、60歳の10万円と80歳の10万円。金額は同じ10万円です。でも、その10万円でできることや、そこから得られる満足まで同じでしょうか。
少し遠くへ旅行する。新しい趣味を始める。学び直す。昔の友人に会いに行く。
年齢を重ねたら楽しめなくなる、という意味ではありません。むしろ、その年代だからこそ楽しめることもあります。ただ、お金には「使いたいと思ったときに、使いやすい時期」があるとも考えられます。
行動経済学では、人は将来の損失を避けようとして、目の前の選択を慎重にしすぎることがあります。特に長い間「貯めること」を大切にしてきた人ほど、資産を使うことに抵抗を感じる場合もあるでしょう。
もちろん、将来への備えは大切です。だからといって、「残すお金」と「使ってよいお金」をすべて同じように考える必要はありません。
金融老年学がおもしろいのは、老後のお金を単に「最後まで足りるか」という問題だけで見ないところです。
お金を残すことも大切。でも、お金を経験や楽しみに変えられる時間もまた、人生の資産です。
将来の安心を守りながら、今の自分だから楽しめることにもお金を使う。
年齢を重ねることは、「使わない理由」が増えることではなく、自分にとってお金の価値とは何かを、改めて選び直していく時間なのかもしれません。

